海外旅行って、ほんと楽しいですよね。 街並みはおしゃれだし、人はフレンドリーだし、カフェもかわいいし、何より日本じゃ味わえない"自由な空気"がある。
「うわ、海外って最高じゃん…!」 「もう日本帰りたくない!」 「いつか移住しよ〜」
そう思ったこと、ある人も多いんじゃないでしょうか。
……でも、ちょっとだけ待って。
その感動って、"観光フィルター"を通して見た景色じゃないですか?
それ、日本で言うと「新宿駅と京都観光しただけ」かもよ?
観光地だけ見て「その国」を語る危険性
まずね、海外で行った場所って、たいてい観光地か都心部なんですよ。 ロンドンだったらピカデリーやノッティングヒル、パリならシャンゼリゼ通り、バリ島ならウブドあたり。全部、いわば"見せる場所"です。
それって日本で言えば、新宿駅・浅草・京都の清水寺あたりをちょっと回った感じ。
それをもって「日本ってこういう国なんだ!」って言われたら……うん、たしかに一部正しいけど、「いやいや、それだけじゃないよ?」って言いたくなりません?
海外だって、同じです。
「海外の人って優しいし、かっこいいよね」……ほんとに?
これ、めちゃくちゃ聞くけど、ちょっと考えてみてほしい。
もし、いきなりあなたの住んでる地域に外国人がやってきて、日本語で話しかけてきたらどうしますか?
たぶん、「えっ!?なに言ってんの!?」ってなりません?(笑)
で、対応できる人ってたいてい、 * 観光地に住んでる * 接客業で慣れてる * 海外経験や語学スキルがある
つまり「慣れてる人だけ」なんですよ。
あなたが海外で「フレンドリー!優しい!」って感じたのも、同じこと。
たまたま話しかけてくれたのが、 * 国際都市の人 * 接客業で観光客に慣れてる人 * ただのノリのいい陽キャ
ってだけだったりする。
みんながみんな、そうじゃない。
見た目だって"外に出られる人"しか見てない
「外国の人って、みんなスタイルよくておしゃれ!」 って思ったことあるでしょ?
でも、それは"外を歩いてる人しか見てない"からです。
これ、日本でも一緒。 代官山とか渋谷歩いてたら、そりゃ美男美女も多いですよ。でもそれ見て「日本人って全員こんな感じなんだ!」って言うのはさすがに違うでしょ(笑)
海外でも、そういう"人目に出ることに抵抗がない層"を見てるだけってこと、意外と忘れがちなんです。
「海外移住したい」は、"逃げたい"だけの可能性も?
もう一歩踏み込んで聞くけど―― あなたが「海外に住みたい!」って思ったのは、ほんとうにその国が好きだからですか? それとも、今の生活から逃げたいだけじゃないですか?
仕事が辛い、将来が見えない、人間関係に疲れた……そんなときって、どこか遠くの知らない国がすごくキラキラして見えたりします。
でも、場所を変えただけじゃ根本的な悩みは解決しません。 むしろ言葉も文化もわからない場所では、新しいストレスが出てくることも多い。
旅行と「暮らす」は、全然違うフェーズ
旅行は、楽しい部分だけを体験できる贅沢な時間です。 でも、暮らすとなると話は別。
- 銀行口座作れない
- 医療費めちゃ高い
- 治安が悪い地域にうっかり引っ越した
- ゴミの捨て方がわからない
……そういう「ガチな日常」に向き合うことになります。
だから、「海外住みたい!」って思ったら、一回"その国で自分が普通に暮らしてる姿"を想像してみてください。 それでも「住みたい」と思えたら、たぶんそれは本物です。
まとめ:フィルター越しの憧れから、一歩深く考えてみよう
海外の魅力、否定するつもりはまったくありません。 むしろ、私も旅行が大好きで、たくさんの国を訪れてきました。
でもね、「海外最高!」っていうテンションのまま移住を夢見るのって、 新宿と京都を回っただけで「日本って全部こうだ!」って言ってる外国人とあまり変わらないんです。
アカデミックな裏付け:研究が示す「観光の心理学」
1. 観光における「ステレオタイプ化」の研究
社会心理学者のDaniel Kahneman(ノーベル経済学賞受賞者)が提唱した「利用可能性ヒューリスティック」理論によれば、人は限られた情報から全体を判断する傾向があります。観光での短期間の体験が、その国全体への印象を決定づけてしまう現象は、この認知バイアスの典型例です。
2. 観光地の「演出された現実」
人類学者Dean MacCannellの著書『The Tourist: A New Theory of the Leisure Class』(1976年)では、観光地が観光客向けに「演出された現実」を提供していることを指摘しています。観光客が体験するのは、地元住民の日常とは異なる「見せるための文化」であることが多いのです。
3. 移住に関する心理学的研究
Environmental Psychology(環境心理学)の研究では、「場所への愛着(Place Attachment)」が形成されるには時間と継続的な関わりが必要であることが示されています。Marc Augé の『非場所(Non-Places)』理論では、観光地や空港などの一時的な空間では、真の場所への愛着は生まれにくいとされています。
4. 「逃避としての移住願望」の研究
心理学者のVictor Frankl やAbraham Maslowの研究では、現状への不満が「理想化された他者・他所」への憧れを生み出すメカニズムが説明されています。これは「隣の芝生は青い」現象の心理学的基盤となっています。
5. 文化適応ストレスの研究
異文化心理学の分野では、Kalervo Oberbergの「Uカーブ理論」が有名です。この理論では、異文化での生活は「ハネムーン期→文化ショック期→適応期→安定期」という段階を経ることが示されており、観光で感じる「ハネムーン期」の感覚だけで移住を決めることの危険性が科学的に説明されています。
参考文献・研究
- Kahneman, D. (2011). "Thinking, Fast and Slow"
- MacCannell, D. (1976). "The Tourist: A New Theory of the Leisure Class"
- Augé, M. (1995). "Non-Places: Introduction to an Anthropology of Supermodernity"
- Oberg, K. (1960). "Cultural Shock: Adjustment to New Cultural Environments"
- Scannell, L., & Gifford, R. (2010). "Defining place attachment: A tripartite organizing framework"
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