~なぜ行政の責任が私たちに押し付けられるのか?~
児童虐待の報告件数が過去最多を更新し続ける中、新聞やテレビでは決まって「社会全体で子どもを守ろう」という言葉が響きます。聞こえはいいですよね。誰もが「そうだ」と頷きたくなる言葉です。
でも、ちょっと待ってください。この「みんなで頑張ろう」の裏側で、何が起きているのでしょうか?
1. いつの間にか「あなたの責任」になっている
本来は誰の仕事?
児童虐待は犯罪です。犯罪への対応は、警察や児童相談所といった専門機関の仕事のはずです。彼らには権限があり、訓練を受け、給料をもらってその仕事をしています。
「美しい言葉」のトリック
ところが「社会全体で」という言葉は、この責任をぼやかします。
「行政の予算が足りない?人手が足りない?じゃあ、みんなで協力すれば解決するよね」
これって、おかしくないですか?
火事が起きたら消防署に電話しますよね。「近所の人たちで協力して消火しましょう」なんて言われたら、「それは消防士の仕事でしょ!」と思いませんか?
2. 私たちにはできないことを求められている
虐待かどうか、どうやって判断する?
虐待を見分けるのは簡単ではありません。
- 「あの子、よく泣いているな」→でも赤ちゃんは泣くのが仕事
- 「親が厳しいな」→でもしつけと虐待の境界は?
- 「子どもにあざがある」→でも転んだのかもしれない
こんな判断を、専門知識のない私たちに求めるのは無理があります。
私たちにできることは限られている
仮に「これは虐待かも」と思っても、私たちにできることは通報だけです。それなのに「地域で見守って」「みんなで支えて」と言われても、具体的に何をしろというのでしょう?
3. 「見守り」が「監視」に変わる怖さ
「みんなで助け合う」の裏側
「地域みんなで子どもを守ろう」は聞こえはいいのですが、実際には何が起きるでしょうか?
- 「あの家、夜中に子どもが泣いている」
- 「あの親、子どもに厳しすぎる」
- 「あの子、いつも汚れた服を着ている」
こんな「気づき」が、やがて「監視」に変わっていきます。
歴史の教訓
歴史を振り返ると、「正義のため」「子どものため」と言いながら、住民同士が監視し合う社会は、必ず息苦しいものになりました。
戦時中の「隣組」も、最初は「みんなで助け合おう」から始まったのです。
4. なぜ「私たちの責任」になるのか?
本当の理由は「お金」
行政が「社会全体で」と言う本当の理由は、予算を削りたいからです。
- 児童相談所の職員を増やすにはお金がかかる
- 専門家を育てるにも時間とお金がかかる
- 24時間対応の体制を作るのも大変
「だったら、住民に頑張ってもらおう」──これが本音です。
責任逃れの手法
問題が起きたとき、「行政の責任」だと言われると困ります。でも「社会全体の問題」だと言えば、責任を分散できます。
「みんなで取り組んでいたのに、なぜ防げなかったのか」──こう言われたら、誰も責任を取らなくて済みます。
5. 本当に必要なのは何か?
まず行政がしっかりすること
- 児童相談所の職員を大幅に増やす
- 職員の給料を上げて、離職を防ぐ
- 24時間対応できる体制を作る
- 専門的な訓練をしっかり行う
これらは全て、予算があればできることです。
私たちの役割は「通報」
私たちにできることは、おかしいと思ったら迷わず通報することです。
判断は専門家に任せる。これが一番確実で、一番安全です。
6. 「美しい言葉」に騙されないために
言葉の裏を読む
「社会全体で」「みんなで協力して」「地域で支え合って」
こんな美しい言葉が出てきたら、一度立ち止まって考えてみてください。
- 本来は誰の責任なのか?
- なぜ私たちに求めるのか?
- 私たちにできることは何なのか?
本当に子どもを守るために
子どもを守りたい気持ちは、みんな同じです。でも、その気持ちを利用されてはいけません。
本当に子どもを守りたいなら:
- 行政にしっかり予算をつけてもらう
- 専門家が専門家の仕事をできる環境を作る
- 私たちは適切な通報を心がける
これが、一番確実で、一番効果的な方法です。
まとめ:責任の所在をはっきりさせよう
「社会全体で子どもを守ろう」──この言葉自体は間違っていません。
でも、その意味を履き違えてはいけません。
- 行政の責任を私たちに押し付けるのは間違い
- 専門性が必要な仕事を素人に任せるのは危険
- 「見守り」が「監視」に変わる可能性がある
本当に子どもを守りたいなら、まず行政がしっかりすること。そして私たちは、自分たちにできることを、できる範囲でやる。
責任の所在をはっきりさせることが、結局は子どもたちのためになるのです。
参考文献・資料
福祉責任の民営化について - Titmuss, R. (1974). Social Policy: An Introduction. - 1993年全国調査:約80%の州が民営化された社会サービスの利用を増加
監視社会の歴史的考察 - 戦時中の隣組制度と相互監視システムの変遷 - 全体主義国家における住民監視システムの分析
児童虐待対応の専門性 - 学校教育法における通告義務の制度的枠組み - 児童相談所職員の離職率に関する調査データ
新自由主義政策下での福祉削減 - レーガン政権下の福祉改革と民営化推進政策 - 社会保障費削減と住民自治への責任転嫁の構造分析
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