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第2章:設計の真意 - なぜこんな複雑な仕組みになったのか
北側ルートで左折させてくれない理由
なぜ左にすぐに入れる交差点があるのに、左折させてくれず、「なんで遠回りさせるの?」と思うかもしれませんが、これには深い理由があります。
高速道路を降りた車は、まだ高速走行モードです。いきなりブレーキで左折させると、後続車の追突リスクが高まります。一旦直進させることで 「速度を落として気持ちを整理する時間」 を与えているのです。
交通工学では、これを 「段階的減速誘導」 と呼びます。実は、とても思いやりのある設計なのです。

南側ルートでアンダーパスを作った理由
私が入手した建築前にどんな建物にしたらいいのかの資料で 「アンダーパスを作らずに普通の右折信号で処理した場合」 の予測データがこちら:
休日午後3-4時の悪夢のシナリオ:
- 来店車両:165台/時
- 前時間からの右折待ち:144台
- 合計処理必要台数:309台/時
- 実際の処理可能台数:72台/時
つまり、必要処理能力の4.3倍の需要が発生する計算。これはもはや渋滞ではなく、交通麻痺です。
国道26号線上に100台を超える右折待ちの車列ができる。これを解決しようと信号の右折時間を長くしたら、反対側から来る阪神高速から出てくる車両を巻き込んだ大惨事になっていたでしょう。設計者がアンダーパスという 「最後の手段」 に踏み切った理由がよく分かります。

出口の信号制御の謎
出口でどうしてスッと出庫できないのか?
私は実際に現地で信号時間を測定してきました。ストップウォッチ片手に怪しい人になりながら。
まず駐車台数は約2,600台です。(だいたい1万台ちょいが車で来るイメージですが、平均滞在時間を90分ぐらいとして)一番車が出る時間帯は休日16時台で1,200台程度になります!
魔の交差点(大和川南交差点)の処理能力:
- 左折1車線、直進1車線、右折1車線の合計3車線
- 3分サイクルで50秒間出庫可能
歩行者信号と対向車を考慮した実効処理能力:約300台/時
駅前側出口の処理能力:
大和川南交差点 右折・左折で各1レーン
- 1分20秒サイクルで30秒出庫可能
- 歩行者がデッキに誘導されることを考慮した実効処理能力:約300台/時
合計600台/時の処理能力に対し、ピーク時1,200台の需要

というのが、現地で計測した私の正直な感想です。つまり、出口でも意図的に 「流出制限」 をかけているのです。 実際はガードマンさんが、歩行者信号と対向車を考慮した実効処理能力を上げるため誘導してくれます。 そして、信号も国道の混雑と店から出る交通量を加味して青の時間を調整していると考えられます。
国道26号線という物流大動脈を守る戦い
前提条件:国道26号線の混雑状況
ちょっと国道26号線さん、混みすぎじゃないですか?
- 小型車:12,905台
- 大型車:9,268台(全体の42%)
- 合計:22,173台
- 混雑度:0.66
- 小型車:14,633台
- 大型車:9,480台(全体の39%)
- 合計:24,113台
- 混雑度:0.70
北方面(国道26号線・大阪方面)
- 小型車:20,196台
- 大型車:3,997台(全体の17%)
- 合計:24,193台
- 混雑度:1.39
- 小型車:10,563台
- 大型車:2,153台(全体の17%)
- 合計:12,716台
- 混雑度:1.39
混雑度1.39の衝撃的意味
この数字を見て、設計者の苦悩が手に取るように分かります。
交通工学における混雑度の基準:
- 1.0未満:スムーズ
- 1.0-1.25:やや混雑
- 1.25-1.75:混雑
- 1.75以上:大渋滞
国道26号線は既に混雑度1.39。これは「レッドゾーン」です。ここにイオンモールの車が加われば、混雑度は軽く2.0超え(完全麻痺レベル)になっていたでしょう。
さらに注目すべきは大型車の圧倒的存在感。阪神高速接続部では大型車比率が4割超え。これは明らかに物流の大動脈です。トラックが1台渋滞すると、経済活動への影響は乗用車の比ではありません。

設計者の頭の中:「社会責任設計」の三段階戦略
この道路を設計した人の思考プロセスを整理すると、見事な 「三段階制御戦略」 が見えてきます。
第1段階:流入制御 「お客様には気持ちよく買い物をしていただきたい。でも物流トラックを止めるわけにはいかない。大阪南部の経済活動を麻痺させるわけにはいかない。左折規制やアンダーパスで遠回りさせて、駐車場への待機車両と導線を分けて本線には影響を出さない!」
第2段階:滞留管理(駐車場) 「2,600台収容の駐車場で、ゆっくり買い物を楽しんでもらおう。滞在時間が長いほど消費額も上がるし、その間に国道の交通も分散される」
第3段階:流出制御(信号調整) 「今度は出口だ。一気に放出すると混雑度1.39の国道がパンクする。信号でじわじわ調整しながら、計画的に送り出そう。出口で多少お待ちいただくのは、社会全体のためなんです」
これは単なる「入りやすく、出にくく」の商業戦略ではありません。「社会インフラとしての責任設計」なのです。
ステークホルダー優先順位の完璧な実現
この設計は、都市計画における「大人の判断」を体現しています:
優先順位第1位:都市インフラの安定性 混雑度1.39の国道26号線を麻痺させない
優先順位第2位:商用交通の円滑性
大型車4割超えの物流大動脈を守る
優先順位第3位:個人利用者の利便性 配慮しつつも、全体最適の中で調整
つまり、「入口はウェルカム、駐車場でゆっくり、出口はほどほどに」という、極めて計算された社会責任設計なのです。
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