2018年11月、福岡市百道地区に開業したマークイズ福岡ももちは、延べ床面積13万平方メートルという九州最大級の商業施設として注目を集めました。隣接する福岡PayPayドームやヒルトン福岡シーホークとの相乗効果により、一度に4万人規模の来客の一方で、開業時には予想通りの大渋滞が発生。しかし、この施設が取り組んだ交通対策は、大規模商業施設の渋滞問題解決において画期的な成果を上げています。
本記事では、マークイズ福岡ももちが実施した革新的な交通戦略とその効果について詳しく分析していきます。

立地とアクセス - 都心部大規模開発の複雑性
再開発プロジェクトの全体像
マークイズ福岡ももちは、PayPayドームを中心とする再開発事業の一環として三菱地所が開発しました。この開発には以下の要素が含まれています:
- 商業施設: マークイズ福岡ももち(延べ床面積13万㎡)
- 住宅施設: 28階建てタワーマンション2棟(計584戸)
なお、周辺に PayPayドーム、ヒルトン福岡シーホーク、九州医療センター が立地しています。
ドーム球場との2階デッキエリアでの導線確保により、大量の来客に対応する設計となっています。
この施設の特徴は「駐車場までわざと遠回りさせて待機列を作る」「歩行者は2階のデッキで移動する」という2点です。
交通アクセスの多様性
車でのアクセス
鉄道でのアクセス
バスでのアクセス
- バス停「九州医療センター」からすぐの立地
道路交通環境の詳細分析
周辺道路の交通状況

マークイズ福岡ももち周辺の道路状況は以下の通りです
東側: 福岡市1589号線(片側2車線)
西側: 福岡市9223号線(地行鳥飼七隈線・片側2車線)
南側: よかトピア通り(福岡市9086号線)
- 24時間交通量: 28,703台
- 混雑度: 0.94(道路容量内)
- 昼間旅行速度: 上り19.1km/h、下り23.1km/h
さらに南側: 明治通り(福岡市8187号線)
- 24時間交通量: 40,924台(推定値)
- 混雑度: 1.12(渋滞が発生しやすい状態)
- 朝夕の旅行速度: 上り12.8km/h、下り16.6km/h
北側: PayPayドームに隣接(私道・西側への片側1車線一方通行)
アクセスルートの最適化
各方向からのアクセスルートが綿密に計画されています:
東側から: 西公園ICから1.5km、よかトピア通り経由で地行浜2丁目交差点を右折
西側から: 百道ICから1km、福岡市9223号線経由で店舗沿いに入庫
南側から: 明治通り経由で福岡市9223号線を北上、地行浜2丁目交差点を右折
北側: 海に面しているためアクセス不可
革新的な駐車場設計 - 待機列戦略の成功
駐車場の基本構成
マークイズ福岡ももちには2つの駐車場があります
- 西側: 店舗上駐車場
- 東側: 立体駐車場 なお、2つの駐車場は上層階でのブリッジ接続
注目すべき設計ポイント - 意図的な遠回り設計

最も革新的な点は、従来の「左折IN・左折OUT」原則を発展させた待機列設計です。
課題認識: 単純な左折原則では、待機列が公道に発生してしまう
解決策: 意図的な遠回りルートによる敷地内待機列の確保
具体的な実装:
- 南側入口: 明治通りからの左折入庫で、店舗と立体駐車場の間を通過してから駐車場入口へ(約200m の待機列確保)
- 東側入口: 福岡市1589号線からの左折車両をマンション周回ルートで約200mの待機列確保
劇的な改善効果
この設計により、以下の顕著な効果が確認されています:
- 改良前: 1時間の渋滞
- 改良後: 10分程度の渋滞(通常時)
再開発前の施設では待機列がなく深刻な渋滞が発生していましたが、この革新的な設計により問題が根本的に解決されました。なお、同時に店舗前道路の拡幅およびタクシー乗降位置の見直しも実施されています。
福岡市による対策
道路インフラの改良
福岡市は開業前から以下の道路改良を実施しました
交差点改良工事
- 地行3丁目交差点への左折専用レーン新設
- 周辺交差点の総合的改良
- 右折専用レーンの延長工事
公共交通インフラ整備
信号制御の最適化
- イベント時の交通量に応じた信号時間の動的調整システム
- 交通流円滑化のための現示パターン見直し
駐車・交通規制の強化
取締強化と新設施設
- 福岡県警による路上駐車取締の強化
- タクシー乗降場の新設(ヤフオクドーム大階段下)
- 指定場所以外でのタクシー客待ち禁止措置
広域交通流の誘導戦略
高速道路利用の最適化
- ドームイベント後の利用者を西公園ランプから百道ランプへの誘導
- 交通分散による渋滞緩和効果の実現
ドーム隣接施設ならではの特徴と対策
駐車場利用規制による優先順位管理
ドーム球場隣接という立地特性から、以下の課題と対策があります
課題: ドームイベント開催時の来場者による駐車場利用集中 対策: ドームイベント開催日の駐車料金値上げによる店舗利用者優先システム
この設計思想は大阪エキスポシティ(サッカー球場隣接)と類似しており、スポーツ施設隣接商業施設の標準的対応となっています。
エキスポシティはなぜ渋滞するのか?駐車場と建物構造の問題を徹底分析 - asklib
歩行者動線の立体分離
課題認識: イベント時の歩行者増加による車両左折時間の延長と渋滞発生
革新的解決策: 2階デッキによる歩車分離システム
具体的実装:
この立体歩行者ネットワークにより、地上レベルでの歩車錯綜(歩行者が多くて左折出来ない現象)が根本的に解決されています。
開業時の緊急対応と課題
開業特別対応
開業初期の混雑に対して、以下の臨時対応が実施されました
臨時駐車場の確保 - 元こども病院跡地の活用
駐輪場対策 - 駐輪場不足に対する遊歩道の臨時転用
開業で明らかになった深刻な課題
事前対策にも関わらず、開業初期には以下の問題が発生しました
公共交通への深刻な影響
- バス停への進入不能による道路上での乗降
- 5分間バス停に入れない状況の頻発
- 路線バス全体への遅延拡大
緊急車両の通行阻害 ※西側に九州医療センターという大病院が立地
- 救急車の逆走を余儀なくされる事態
- 生命に関わる緊急事態への対応遅延リスク
住宅街への影響拡大
- 他県ナンバーを含む車両の住宅街流入
- 子どもや高齢者の事故リスク増大
- 生活道路の機能麻痺
自転車交通の予想外の混乱
駐輪場不足による違法駐輪問題 1,700台の駐輪場を設置したにも関わらず - 歩道の大量占拠 - 車椅子利用者の通行阻害 - 横断陸橋周辺での違法駐輪拡大
実証された効果的対策
駐車場待機列の圧倒的効果
前述の通り、駐車場待機列の創設により
- 渋滞時間の劇的短縮: 1時間 → 10分程度
- 公道への影響最小化: 敷地内での処理完結
- 予測可能な待機時間: 利用者の利便性向上
待機列の有効性を定量的に証明する貴重なデータとなっています。
歩行者安全性の向上
立体歩行者ネットワークの効果
- 歩車分離による交通事故リスクの大幅削減
- イベント時の大量歩行者流動の円滑化
- 車両交通への影響最小化
今後の展望 - さらなる改善への取り組み
継続課題への対応
ドーム球場でのイベント開催時の人流増加は依然として課題となっており、以下の改善策が検討されています
動く歩道構想
唐人町駅へ向かう店舗南東側の川沿い遊歩道について - 現状:徒歩による遊歩道 - 構想:動く歩道の設置 - 効果:さらなる歩行者利便性向上と交通負荷軽減
この構想は、公共交通利用促進による自動車交通の更なる削減を目指すものです。
唐人町駅ーみずほペイペイドームの動く歩道は「川の上」に 福岡市長が前向き検討|【西日本新聞me】
現在の状況
GoogleMapを眺めていると、この地図の箇所が特に渋滞するようです

まとめ - 大規模開発交通対策の新標準
主要成功要因
- 意図的な遠回りルートによる待機列確
- 立体歩行者ネットワーク**: 歩車分離による根本的解決
今後の発展可能性
動く歩道構想に代表されるように、この施設は今後も交通利便性向上に向けた取り組みを継続する予定です。特に、公共交通利用促進による持続可能な交通システムの構築は、都市部大規模開発のモデルケースとなる可能性があります。
施設基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 施設名 | MARK IS福岡ももち |
| 所在地 | 福岡県福岡市中央区地行浜2-2-1 |
| 運営会社 | 三菱地所 |
| 敷地面積 | 42,289㎡ |
| 延べ床面積 | 123,074㎡ |
| 賃貸面積 | 28,906㎡ |
| 店舗階数 | 5階 |
| 専門店数 | 163店舗 |
| 開業日 | 2018年11月21日 |
| 駐車台数 | 1,300台 |
| 駐輪台数 | 1,700台 |
| 最寄駅 | 福岡市地下鉄 唐人町駅(950m) |
| 最寄りIC | 福岡都市高速環状線 西公園ランプ(1,342m) |
本記事の交通データは開業時点の情報に基づいています。最新の状況については施設公式サイトをご確認ください。
参考文献
SC JAPAN TODAY January and February 2021
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