「まわりゃんせ」をご存じでしょうか?このチケット、超お得なんです!伊勢志摩地域を4日間、指定区間の電車・バス・船が乗り放題の上、名古屋・大阪・京都からの往復近鉄利用できるチケット付き!なんと特急も乗れます!しかも伊勢志摩を中心とする観光施設を30施設ぐらい入れちゃいます!あの志摩スペイン村・鳥羽水族館まで入れるんです。
その誕生には約30年に及ぶ伊勢志摩観光パスの歴史があります。1973年から始まった様々な観光切符の試行錯誤を経て、2002年に現在の形となった「まわりゃんせ」の全歴史と成功の秘密を探ってみましょう。
前史:多様な観光パスの時代(1973年〜2001年)
草創期(1973年〜1976年)
1973年4月1日、近鉄は最初の伊勢志摩観光パス「乗りほうだい伊勢志摩フリーきっぷ」を2,260円で発売しました。このパスは伊勢志摩バス乗り放題、特定船・フェリー乗り放題、そして伊勢志摩指定地区の近鉄乗り放題という、現在の「まわりゃんせ」の原型となる充実した内容でした。
価格は段階的に上昇し、1974年10月には2,870円、1975年4月には3,110円となりました。興味深いことに、1975年5月には一度2,610円に値下げされましたが、翌1976年2月には3,450円(難波からは2,990円)、同年3月には3,700円(難波からは3,110円)まで上昇しました。
多様化の時代
この時期には複数の観光パスが並行して存在していました:
- 乗りほうだい伊勢志摩フリーきっぷ:最も充実したプランで、バス・船・近鉄すべて乗り放題
- 伊勢鳥羽ミニフリー切符:鳥羽湾めぐり遊覧船のみに限定した船舶利用
- 志摩スペイン村パルケエスパーニャフリーきっぷ:近鉄全線乗り放題が特徴
各チケット別サービス表
| 乗りほうだい伊勢志摩フリーきっぷ | 伊勢鳥羽ミニフリー切符 | 志摩スペイン村 パルケエスパーニャフリーきっぷ | 伊勢・鳥羽・志摩スーパーパスポートまわりゃんせ | |
|---|---|---|---|---|
| 伊勢志摩バス乗り放題 | 〇 | 〇 | × | 〇 |
| 特定船・フェリー乗り放題 | 〇 | △(鳥羽湾めぐり遊覧船のみ) | × | △(初期は対象外) |
| 伊勢志摩指定地区近鉄乗り放題 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
| 近鉄全線乗り放題 | × | × | 〇 | × |
| 志摩スペイン村パルケエスパーニャ(パスポート) | × | × | 〇 | 〇 |
料金推移
| 乗りほうだい伊勢志摩フリーきっぷ | 伊勢鳥羽ミニフリー切符 | 志摩スペイン村 パルケエスパーニャフリーきっぷ | 伊勢・鳥羽・志摩スーパーパスポートまわりゃんせ | |
|---|---|---|---|---|
| 日数 | 4 | 不明 | 4 | 4 |
| 1973/4/1 | 2,260 | |||
| 1974/10/1 | 2,870 | |||
| 1975/4/1 | 3,110 | |||
| 1975/5/1 | 2,610 | |||
| 1976/2/1 | 3,450 | 2,990 | ||
| 1976/3/1 | 3,700 | 3,110 | ||
| 2001/4/1 | 8,800 | |||
| 2002/10/1 | 9,300 |
近鉄の伊勢志摩戦略と「まわりゃんせ」誕生の背景
「まわりゃんせ」の進化史
誕生期(2002年〜2007年)
2002年10月、「伊勢・鳥羽・志摩スーパーパスポートまわりゃんせ」が正式に誕生。大人9,300円、小児5,100円という価格で、前身の観光パスの要素を統合しました。近鉄全線乗り放題は廃止され、往復特急券付きという現在まで続く形になりました。
拡充期(2008年〜2012年)
2008年頃から大きな変化を遂げます。最も重要な変化は、フリー区間が松阪から賢島間に拡大されたことです。これにより、本居宣長記念館や斎宮歴史博物館などの歴史的施設も対象に加わりました。
充実期(2013年〜2019年)
2013年〜2014年の伊勢神宮式年遷宮では利用可能期間が長く設定され、多くの参拝客を迎え入れました。この時期に「パールシャトル」も追加され、より便利になりました。
転換期(2020年〜2022年)
コロナ禍で多くの施設が休館となる困難な時期を経て、2022年には初めて「往復特急券無し」プランが登場。より多くの人が利用できるようになりました。
現在(2023年〜2025年)
2025年現在、特急券付きプランは大人11,700円、小児6,400円。「ゼロ距離水族館 伊勢シーパラダイス」が久しぶりに対象施設として復活するなど、新たな魅力も加わっています。
なぜ「まわりゃんせ」は成功したのか?- 3つの戦略的要因
1. 垂直統合された観光インフラ
近鉄グループは伊勢志摩地域において以下の施設を運営しています:
ホテル:志摩観光ホテルクラシック・ベイスイート、ホテル近鉄アクアビラ伊勢志摩、ホテル志摩スペイン村、リゾートイン磯部、賢島宝生苑、鳥羽シーサイドホテル等
レジャー施設:志摩スペイン村、イルカ島、志摩マリンランド、志摩スペイン村ひまわりの湯
ゴルフ場:近鉄賢島カンツリークラブ、近鉄浜島カンツリークラブ
海上交通:志摩マリンレジャー(英虞湾周遊、定期巡航船、鳥羽湾周遊)
不動産・別荘:賢島別荘地、伊勢古市
この垂直統合により、観光客がどの施設を利用しても近鉄グループに収益が入る仕組みが構築されています。
2. 絶妙な4日間設定の心理学
4日間という有効期限は絶妙なポジションです。志摩スペイン村や鳥羽水族館など1日をかけて回る施設が多いため、1日ではとても回りきれません。そのため宿泊を伴うことになり、近鉄グループのホテルに泊まってもらえるきっかけになります。
しかし、4日の連休を取るのは実際には難しく、全施設を回るのは困難です。この「回りきれない魅力」が、リピーターを生む仕組みにもなっています。
3. 行政・観光協会との三位一体戦略
近鉄は歴史のある会社として、伊勢志摩の環境協会や行政とのつながりを活かし、三位一体となって地域全体をブランディングしています。これは単なる割引チケットではなく、伊勢志摩という地域そのものを一つのアミューズメントパークとして体験してもらう戦略です。
他地域では真似できない「まわりゃんせ」モデル
他の地域が「まわりゃんせ」のようなチケットを作ろうとしても破綻すると考えられます。まわりゃんせが成功しているのは、行政と近鉄が長い関係性のなかでWin-Winの連携できているからです。
他の地域の「安いクーポンを作れば人が来てくれる」「魅力的なクーポンを作れば地域活性化」とは次元が異なり、長期的なブランディング戦略が非常にうまくいった事例と言えます。
YouTubeやブログで見る現代的な楽しみ方
現在では「全施設回ろう!」というチャレンジがYouTubeやブログで人気コンテンツになっています。このチケットがなければ埋もれてしまう施設を掘り起こしてくれる効果もあり、地域の隠れた魅力を発見する楽しみも提供しています。また、このような企画は1泊では終わらないため宿泊地や飲食店のPRもインフルエンサーが無料でしてくれます。
インフルエンサーの企画による拡散・綺麗な景色をカメラに収めて個人がSNSで投稿。伊勢志摩そして松阪という非常に広域で様々な楽しみ方が個々に情報発信をするインターネットによる拡散は他の地域を圧倒するアドバンテージですね!
まとめ:50年を超える戦略的成功
約50年間の歴史を持つ伊勢志摩観光パスの系譜において、「まわりゃんせ」は集大成的な存在です。1973年の「乗りほうだい伊勢志摩フリーきっぷ」(2,260円)から2025年の「まわりゃんせ」(11,700円)まで、約50年で5倍以上の価格上昇がありましたが、この間のインフレーションや観光施設の高度化を考えれば、むしろ観光客にとって価値のあるパスとして進化し続けてきたといえるでしょう。
近鉄の伊勢志摩戦略は、戦後復興期から現在まで一貫して「地域全体の魅力向上」を目指してきました。交通インフラ、宿泊施設、レジャー施設、海上交通まで垂直統合し、行政・観光協会との連携により、持続可能な観光地域づくりを実現した稀有な成功例です。
コロナ禍という困難を乗り越え、現在も進化を続ける「まわりゃんせ」。50年以上にわたる戦略的投資と地域連携の歴史を背負いながら、これからも多くの人に伊勢志摩の魅力を届ける架け橋として、その使命を果たし続けていくことでしょう。
戦後復興期からの地域開発(1949年〜1960年代)
近鉄の伊勢志摩への本格的な投資は戦後から始まりました:
- 1949年10月:近鉄と三重県、三重交通の共同出資で志摩観光ホテル株式会社を設立
- 1951年4月:志摩観光ホテルを開業
- 1959年3月:鳥羽湾内の日向島にイルカ島海洋遊園地を開園
- 1955年:志摩ゴルフ場開場
高度経済成長期の大規模開発(1960年代〜1970年代)
この時期、近鉄は伊勢志摩を一大観光地にするための基盤整備を積極的に進めました:
- 1964年10月21日:伊勢志摩スカイライン開通(16.3kmのドライブウェイ)
- 1964年11月:鳥羽・伊良湖間航路運行開始(近鉄と名鉄の合弁事業)
- 1969年:賢島カンツリークラブを開業、賢島スポーツランドを併設
さらに志摩マリンランドや賢島大橋の建設など、近鉄は交通インフラから宿泊・レジャー施設まで一体的に整備していきました。
「まわりゃんせ」誕生(2002年)- 危機への対応
しかし、1994年に志摩スペイン村を開業し、1995年に賢島宝生苑を開業したものの、伊勢志摩国立公園利用者数は志摩スペイン村開業年の1994年の19,537千人から2001年には10,668千人へと約半分に減少してしまいました。
こうした深刻な状況に歯止めをかけるため、2002年9月に企画商品「まわりゃんせ」の発売を開始しました。これは単なる割引チケットではなく、地域全体を一つのアミューズメントパークとして楽しんでもらう戦略的な商品だったのです。
まわりゃんせのサービス推移はこちら まわりゃんせサービス推移表
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