asklib

ショッピングモールの渋滞がなぜ発生するか構造的に分析

テラスモール松戸の"渋滞地獄"はなぜ起きた?― 道路整備が間に合わない都市計画の限界

千葉県松戸市にある大型商業施設「テラスモール松戸」。2019年10月の開業直後から、周辺道路に大規模な渋滞が発生し、一時は「車で行くと大変な目に遭う」と話題になりました。

こうした商業施設の開業に伴う渋滞は珍しいことではありません。しかし、テラスモール松戸の場合、渋滞は開業前から予見されていたことが確認できます。

地図はこちら▶(外部リンク)

1. 施設の立地

テラスモール松戸は、東京から仙台を結ぶ国道6号線の千葉県内で南東方面分岐した「けやき通り」という片側1車線の道路の南側に位置しています。

駐車台数約2,000台、武蔵野線常磐線新松戸駅から南東方向約1.3kmに位置しています。[3]

開業前の計画

けやき通りから国道へ抜ける青信号が短く、この交差点を起点とした渋滞が発生する可能性があり、関係機関と協議し、交差点が破綻しない範囲で施設とした。

それでも、東京側から国道6号線経由でテラスモールへ入庫する際に1つの交差点で右折させると、容量が破綻するため、手前の交差点で右折させるルートも案内して大回りさせる。手前で右折する大回りルートで入庫すると店の前で左折入庫になりスムーズに入庫できる。[1]

当時としては新しい清算システム(駐車券を取らずナンバープレートで管理してゲート通過の時間を短縮する)を導入[1]

全駐車スペースにセンサーを取り付け、空きスペースを案内する。[1]

Webサイトに交通渋滞情報をリアルタイムで案内する[1]

松戸市はテラスモール松戸と国道6号の交差点に右折レーンを増設する[4]

駐車場出入口MAP(店の前)
駐車場入り口経路(広域)

2. 開店後の現実(2019年10月25日オープン)

国道6号の渋滞は壊滅的で、通勤や通学にも大きな影響を与えている[2]

週末の夕方なんて前の道が両方ともキロメートルレベルで混んでいる。もともと渋滞していたがさらに悪化しているようだ(SNS流山口コミ調査隊より)

今まで静かで車通りも少なかった裏通りにも、バンバン車が通るようになり、近隣に住む子どもたちにとって危険な面もある(SNSより)

国道6号の交差点に右折レーンを増設工事が間に合わない[4]

出庫に2時間かかる。[1]

新しい精算システムに不慣れのため入出庫に時間がかかる[1]

交通情報や空きスペースの情報を一気に運転者に与えてしまい、かえって混乱してしまった。[1]

そして、クレームが相次ぐ[1]

  • 入庫に時間がかかり見たかった映画に間に合わなかった。
  • 出庫に時間がかかりすぎて、車を置いて帰った

3. 開店後の追加対策

路面のペイントを分かりやすくする。[1]

空きスペース誘導が複雑すぎたので単純に矢印だけで案内する。[1]

入出庫状態を常に監視し、出庫までにかかる時間を館内のテレビ(デジタルサイネージ)で公開する。

このテレビでは2時間後に出庫した場合に、出庫までにかかる時間を表示して渋滞を少しでも回避できる時間を提案。[1]

さらに、出庫に30分以上見込まれる場合は、館内で利用できる金券をプレゼントして顧客満足度を向上させる[1]

4. 真の解決は2020年10月29日

行政が渋滞の起点となっていたけやき通りと国道6号線の交差点で拡幅(二車線から三車線化)を実施[1][5]

これにより渋滞は激減した。

5. 解説(ちょっと難しくなっちゃいました)

5.1. 渋滞は「想定外」ではなかった

テラスモール松戸のような大規模な施設を建築する際は、市民に不利益が発生させず、自然環境にも配慮するため、事前に警察や県・市など関係機関と協議します。

今回のテラスモールでは開店前に国道6号線の拡幅工事の予算が下りているため、計画のかなり初期段階から拡幅の必要性が関係者で共有されていたことは明白であります。

だが、現実は拡幅が間に合わなかったということでしょう。実はこのように開店までに拡幅や新しい道路が計画までに完成しなかったというのはたまにありますが、ここまで事態が悪化した原因を考えてみます。

5.2. 拡幅が間に合わない状況でいかに渋滞させないかの配慮をもっとしてもよかったのでは

開店が先行するなら、通常"暫定対応"として警備や交通整理が強化して交通マヒレベルの混乱は起こさせない配慮をするにもかかわらず、今回の事例は交通マヒを起こすレベルで、しかも子どもにまで危険を与えていたのである。

本当に問題なのは、「間に合わないと分かっていながら、暫定的な交通対策が効果があるレベルまで実施されなかった」点です。

例えば、以下のような暫定的な対応は可能だったはずです。

  • ピーク時の交通誘導の強化(警察および民間による)
  • 時間帯別に駐車料金を調整し、ピークの集中回避
  • 開業直後の集客を抑えるため、映画の本数や広告露出を一時的に制限(テラスモールには映画館が入ってます)
  • 通行ルートの規制実施

部分的に行われたとは推測するが、効果があるレベルには至っていなかったと推測される。

5.3. 渋滞という名の「見えない交渉」

先の提案は「言うは易し、行うは難し」。それは百も承知のうえです。しかし、それでもこの問題は無視してよい話ではないと思います。

何もしなければ、渋滞は広範囲に波及し、結果として地域全体が「等しく不便」になる。一方で、何か対策を講じれば、それは必ず「誰かが一方的に負担を背負う」構図を生む――例えば、待ち行列に巻き込まれる住宅街や、費用負担を求められる行政・民間事業者など。

つまりこれは、単なる交通の問題ではなく、「誰がどこで何をどれだけ負担するか」という極めて政治的な問題です。だからこそ、そこに対する合意形成のプロセスを意識的に設計する必要があります。

加えて、今回の事例のように、建設前に「道路拡幅が必要」と分かっていたにもかかわらず、それが実現しないまま開業に至った場合に致命的なレベルの交通マヒを発生させるケースが増えると、今後の都市開発においても重大な影響を与える可能性があります。

たとえば、今後、他の大規模開発は「拡幅しない場合の対策計画」までセットで提出しなければならないという規制強化が起きるかもしれません。それが現実化すれば、民間側の負担は二重三重になり、結果的に投資や開発意欲を削ぐことにもつながりかねません。

だからこそ重要なのは、もし計画通りに交通インフラが間に合わないまま開店になった場合に、その不利益が誰に・いつ・どのように及ぶかを「交渉可能な形」にすることです。

そしてその交渉に、地域住民・民間・行政・交通機関・専門家といったステークホルダー全員が、どこまで主体的に関与する覚悟があるのかが問われているのではないでしょうか。

テラスモール松戸の渋滞問題は、ただの「混んだ」「不便だ」という話ではなく、都市と人の共存をどう実装するかという現代的な問いを投げかけているように思えてなりません。


テラスモール松戸のWEB出庫時間表示サービスを調査

2025年8月11日16時10分、テラスモール松戸のWEB出庫時間表示サービスを調査した結果、以下の状況を確認した。

駐車エリア別出庫時間の詳細

A・Bゾーン(店舗屋上駐車場)

  • 出庫時間:50分

C・Dゾーン(店舗上立体駐車場)

  • 3F:15分
  • 4F・5F・RF:50分

Eゾーン(隣接立体駐車場)

  • 1F・2F:15分
  • 3F・RF:5分

出庫予定時間を改訂

現在も残る渋滞の原因

国道6号線の拡幅工事により大幅な改善が見られたものの、依然として国道6号線へ向かう交差点からの渋滞がテラスモールまで延伸している状況が確認された。特に注目すべきは、「30分待てば5分で出庫できる」という現象で、これは渋滞の波が時間差で解消されることを示している。(30分待てば合計35分で出庫というツッコミを一人で入れてました)

駐車エリア選択の重要性

調査結果から、駐車場所の選択が出庫時間に大きく影響することが明確になった

最も効率的:Eゾーン(隣接立体駐車場)の上層階

  • 3F・RF:わずか5分で出庫可能

避けるべき:A・BゾーンおよびC・Dゾーンの上層階

  • 最大50分の出庫時間を要する

駐車場設計上の新たな課題

C・Dゾーンで現れた「下層階ほど早く出庫できる」という現象は、駐車場運営上の新たな問題を浮き彫りにしている。

問題点

  • 利用者は通常、上層階よりも下層階を選択する傾向がある
  • 下層階の渋滞により、空いている上層階への誘導が困難になる
  • 結果として全体の駐車効率が低下する

方針

 上層階に駐車してもらえれば駐車場全体のパフォーマンスが上がる。

必要な対策

  • 上層階ほど早く出庫できるような動線設計の見直し
  • 駐車料金の階層別差別化(上層階を割引など)
  • より効果的な駐車誘導システムの導入

出庫システムのWEB表示改善提案

現在のWEB表示システムは以下のような表記で混乱を招いている

現在の表示

  • A Bゾーン / C Dゾーン / E ゾーン
  • 八柱‧国道6号方面出口 / 国道6号方面出口

改善提案

  • 店舗屋上 / 店舗立体駐車場 / 隣接立体駐車場
  • 信号交差点出口 / 左折専用(国道6号線方面のみ)出口

この改善により、利用者はより直感的に駐車場所と出庫ルートを理解できるようになり、効率的な駐車場選択が可能になると考えられる。特に「左折専用」という表記は、右折による渋滞リスクを避けたい利用者にとって有用な情報となる。

現在への示唆

2025年8月の調査結果は、インフラ整備が完了した後も、施設運営上の細かな課題が残存していることを示している。特に駐車場内での効率的な車両誘導は、大規模商業施設が抱える共通の課題となっており、テラスモール松戸で培われたデジタルサイネージによる出庫時間表示システムは、他の施設でも活用されている。 ※イオンモール広島府中の駐車場対策として導入されました! 「イオンモール広島府中」に 「AI 画像解析による駐車場出庫時間表示サービス」を提供

今後の大規模商業施設開発においては、単なる交通インフラの整備だけでなく、施設内の細やかな動線設計や利用者行動を考慮した運営システムの重要性が、より一層高まっていくと考えられる。

施設基本情報

項目 内容
施設名 テラスモール松戸
都道府県 千葉県
運営会社 住商アーバン開発
敷地面積(m2) 49,000
延床面積(m2) 103,091
賃貸面積(m2) 42,000
専門店数 180
開業日 2019
映画館
駐車台数 2,000
駐車料金 有料
最寄駅 新松戸
距離(m) 2,300
最寄りIC 松戸IC
ICからの距離 8,626
入口の数 2
駐車場の数 1
駐車場状況リアルタイムURL リンク
GoogleMap リンク

参考文献

[1] SC JAPAN TODAY January and February 2021

[2] 松戸つうしん 喜んでばかりもいられない!テラスモール松戸を中心としたエリアで深刻な渋滞が、通勤や通学に影響も

[3] 第140回大規模小売店舗立地審議会資料(法第5条第1項)

[4] 松戸つうしん テラスモール松戸開業に伴う渋滞対策に遅れ、入札不調で1億円増額

[5] 松戸ロード松戸の地域情報けやき通り(テラスモール松戸近く)から国道6号の小金消防署入口交差点へ3車線化進展、千葉県松戸市のニュース


追加情報

大型商業施設の駐車場における出庫時間予測システムの導入事例 大型商業施設の駐車場における出庫時間予測システムの導入事例 | 導入事例 | 丸紅ネットワークソリューションズ株式会社


他の施設も分析してます。こちらも見てね!

交通アクセス分析ショッピングセンター・商業施設一覧 - asklib