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なぜ大手IT企業が原発を視野に入れるのか

序文(導入)

最近、Metaをはじめとした大手IT企業が原子力発電所との長期契約を結んでAI向けの電力を調達するというニュースが話題になっています。「え、今さら原発?」と思った人も多いのではないでしょうか。でもこの話、よくよく考えると「AIだから原発」ではなく、「データセンターだから原発」なんです。

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1. なぜ大手IT企業は原発を選ぶのか?

GoogleAmazonMicrosoft、そしてMeta……いまやテックジャイアントが相次いで原発に接近しています。2024年だけでも、これらの企業は原子力エネルギーへの大規模投資を次々と発表しました。

その理由は一言で言えばこうです:

原発とデータセンターは、電力の使い方が相性抜群だから。」

つまり、AIが関係なくても、常時安定して電力を供給する原発(ベースロード電源、24時間365日電力を安定して発電します)と、24時間365日電力を消費し続けるデータセンターの組み合わせは非常に理にかなっているのです。

データセンターは、風力や太陽光のような天候に左右される再生可能エネルギーだけでは運営が困難です。一方、原発は天候に関係なく、一定の出力で電力を安定供給できます。この「相性の良さ」が、テック企業が原発を選ぶ最大の理由なのです。

2. では、なぜAIが強調されるのか?

AIの登場で何が変わったかといえば、それは必要な電力量の「ケタ」が変わったこと。従来のGoogle検索と比べて、生成AI(ChatGPTのようなもの)は大幅に多くの電力を必要とします。

具体的には、ChatGPTへの1回の質問は約10倍の電力を消費するという研究結果があります。Goldman Sachsの報告によると、ChatGPTのクエリは従来のGoogle検索の約10倍の電力を必要とし、別の研究では約25倍という数値も報告されています。

AIモデルは学習にも利用にもとてつもない計算量を要するため、それに応じてデータセンターの規模が急拡大しているのが実態です。

つまり:「AIだから原発」ではなく、「AIでサーバーが増えすぎたから、原発が現実解に」という順序です。

3. 放射能だけがリスクじゃない:見落とされがちな「水問題」

原発と聞くと、放射能や廃棄物といったリスクがまず思い浮かぶと思います。確かにそれも重要ですが、もうひとつ見落とされがちな問題があります。それが「水」です。

原発にとっての水

原発は冷却のために膨大な水量を必要とします。海水や河川水を使って原子炉の温度を下げるわけですが、その際に環境への温排水が問題になります。日本の原発では、1つの原発が1日あたり数十万トンから数百万トンの水を使用しています。

データセンターにとっての水

意外かもしれませんが、データセンターもまた冷却のために大量の水を使います。特に高密度なAI向けクラスタ(ざっくりいうと沢山の高性能なサーバ沢山)を運用するような施設では、水冷方式が主流になっています。研究によると、ChatGPT-4の100語の回答を生成するのに約519ミリリットルの水が必要とされています。

原発 × データセンター = 電気も水も「大食い」な施設の掛け算。

これは、水資源が限られた地域では深刻な問題となる可能性があります。特に干ばつの影響を受けやすい地域では、原発とデータセンターの組み合わせが地域の水資源に大きな負担をかける可能性があります。

4. CO2だけで語れない時代へ

ここまで見てきたように、原発を「クリーン」と言い切るのは少し短絡的です。確かにCO2は出しませんが、水資源や放射性廃棄物、地域への環境影響など他の側面にも目を向けるべきです。

実際、Metaが計画していた原発を利用したデータセンター建設プロジェクトは、希少な蜂の生息地への環境影響を理由に中止されました。これは、原発の問題が放射能だけでないことを象徴的に示す例です。

そして、最近では世界的に「水資源」の枯渇や配分問題が大きく注目されています。これからは、二酸化炭素と並ぶか、それ以上に「水」がインフラ倫理の大きなテーマになってくるのではないでしょうか。

結び:私たちは何を選ぶのか

便利で賢くなったAIの裏には、電力と水という重たいインフラの現実があります。原発か否かの議論にとどまらず、AI時代の持続可能なインフラとは何かを真剣に考えるときが来ているのかもしれません。

テック企業による原発投資は、単なる電力調達の話ではありません。それは、私たちの未来のデジタル社会がどのような環境コストを払うのか、そしてそのコストを誰が負担するのかという問題でもあるのです。


学術的裏付け・参考資料

主要な情報源

  1. テック企業の原発投資動向

  2. AI vs 従来検索の電力消費比較

    • Electric Power Research Institute: ChatGPTのクエリは2.9 Wh、従来のGoogle検索は0.3 Whと報告
    • Goldman Sachs Report: ChatGPTのクエリは従来のGoogle検索の約10倍の電力を消費
    • Euronews (2025年3月): AI検索が年間約10 TWhの追加電力需要を生む可能性
  3. 水資源への影響

    • Business Energy UK (2025年2月): ChatGPT-4の100語回答生成に519mlの水と0.14 kWhが必要
    • Washington Post の報告に基づく計算
  4. 環境影響の具体例

    • Fortune (2024年11月): Metaの原発利用データセンター計画が希少な蜂の生息地問題で中止

注意事項

  • AI電力消費の数値は研究により大きく異なる(10倍〜25倍の幅)
  • 水使用量の計算は使用するAIモデルや設備効率により変動
  • 原発の水使用量は立地や冷却方式により大きく異なる

これらの数値は継続的に研究が進められており、技術改善により変化する可能性があります。


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