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阿倍野再開発は失敗か成功か?40年2000億円の真実と防災効果を検証

阿倍野再開発事業の全体像

地図はこちら▶(外部リンク)

「何千億円の赤字事業」と批判される阿倍野再開発。でも、この事業をやらなかったら、大惨事になったかも

大阪市阿倍野地区の再開発事業は、1976年に始まって2018年に完了した42年間の大事業です。「日本最大の失敗事業」と言われることもありますが、本当にそうでしょうか?

再開発前の阿倍野地区

消防車が入れない街

想像してみてください。あなたの家の前の道路幅が2メートルしかなかったら?

再開発前の阿倍野地区の現実

  • 消防車が入れない狭い道ばかり
  • 火事が起きても消防士が走って駆けつけるしかない
  • その間に隣の家、また隣の家と燃え広がる
  • 最終的に街全体が火の海になる

これ、比喩じゃないんです。実際にこんな街が大阪の中心部、天王寺駅のすぐそばにあったんです。

木造住宅がギュウギュウ詰め

戦前から続く危険な状況

  • 築50年、60年の木造住宅が隙間なく並ぶ
  • 家と家の間隔はわずか数十センチ
  • 一軒燃えたら確実に延焼する
  • 逃げ道もない

数字で見る危険度

  • 不燃化率:たった16%(10軒中8軒以上が燃えやすい木造)
  • 公共用地率:21%(道路や公園がほとんどない)

阪神大震災が証明した恐怖

1995年の阪神・淡路大震災地震の揺れで亡くなった人より、その後の火災で亡くなった人の方が多かったんです。

阿倍野と同じような木造住宅密集地で何が起きたか:

  • 地震で倒れた家具に挟まれて動けない人たち
  • そこに火災が迫ってくる
  • 道が狭くて消防車が入れない
  • 救助したくてもできない

「赤字事業」の真実

確かに事業収支は巨額の赤字になった

大阪市の公式資料でも「事業収支としては多額の収支不足が生じた」と明記されています。批判されるのも当然です。

なぜ赤字になったのか

  • バブル期に地価が暴騰→土地の買収費が跳ね上がった
  • バブル崩壊で商業施設が売れなくなった
  • 反対運動で事業が長期化→建設費も上がった
  • 42年もかかってしまった

でも「やらなかった場合の被害」を考えてみて

もし阿倍野再開発をやらなかったら

  • 地震で数百人が家を失う可能性
  • 街全体が焼失する経済損失
  • 救助活動ができない社会的損失

再開発で何が変わったのか

命を守る街に生まれ変わった

防災機能の劇的改善

  • 不燃化率:16%→100%(全て燃えない建物に)
  • 道路幅:消防車がスイスイ通れる広さになった
  • 公園:ほぼゼロ→3箇所(避難場所を確保)
  • 避難可能人数:14万2千人(周辺住民も避難できる)

これ、どういう意味かわかりますか?地震が来ても、火災を最低限にとどめて、住民は避難できるようになったということです。

普通に住める街になった

住環境の改善

  • 約3,100戸の住宅→約7,000人が住んでいる
  • 道路も広くて歩きやすい
  • 救急車もちゃんと来てくれる
  • 子どもが安全に遊べる公園もある

「保険」と同じ考え方

防災投資は「保険」

あなたは医療保険に入っていますか?毎月保険料を払っていますよね。

  • 病気にならなければ「無駄」に見える
  • でも病気になった時の安心感は計り知れない
  • 命に関わる重病なら、保険料の何十倍もの価値がある

阿倍野再開発も同じです。

  • 地震が来なければ「無駄」に見える
  • でも地震が来た時の安心感は計り知れない
  • 人命を守る価値は、お金では測れない

「災害が起きなかった成功」は見えない

これが防災事業の難しいところです。

失敗は目立つ

  • 赤字になった→すぐにニュースになる
  • 税金の無駄遣い→みんなが怒る

成功は目立たない

  • 災害が起きなかった→当たり前すぎて誰も注目しない
  • 人が死ななかった→そもそも気づかない

本当の失敗は「やらないこと」

  • 確実に起こる災害への備えを怠る
  • 目先の予算を惜しんで、将来の大損失を招く
  • 「お金がもったいない」と言って、人命を危険にさらす

これこそが本当の「失敗」ではないでしょうか。

再開発で商店街やマンションも

最後に

たしかに巨額赤字のプロジェクトは日本にも多々存在します。 プロジェクトでも超高層ビルを建てる、埋め立て地を造成する これは本当の赤字かもしれません(まぁこれも一方的なのですが)

ただし、今回のあべののプロジェクトは「防災投資」が第一だったのです。 そりゃぁ途中でバブルに浮かれて巨大建築を立てる予算にぶれた感はあります。 でも、一番の幹は防災です。

イメージできますか? 火災が起きても消防車が来れない そして燃えやすい建物ばかり逃げ道が無い、建物自体が倒れてくるかもしれない 病気になっても、救急車も入れない

しかも、そういうエリアが天王寺という大阪の3番目の都市にあったのです。 そのうえで、赤字はだめだと思う方もいらっしゃるでしょう、否定はしません。考え方を強制する気は全くありません。 ただし、ちょっとでも安全な都市になったんだな、と思っていただければと思います。

再開発後の街並み。消防車も救急車も余裕で入れそうです


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参考文献 都市再開発法制定50周年記念 ~時代を画した再開発事業~ あべのキューズタウン、あべのベルタほか

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