東京都大田区の令和島。羽田空港に近い103ヘクタールの人工島が、いま「港湾・先端テクノロジー実装の場」として大規模開発されようとしています。

令和島開発の現状:「とりあえず準工業地域にします」
現在の令和島開発計画を整理すると、実に曖昧です:
決まっていること
決まっていないこと
- 具体的な街のビジョン(私が確認できた範囲では、詳細なマスタープランや具体的な街のビジョンは公表されていない)
- 建物の配置や高さ制限
- どんな企業をどの程度誘致するのか
- 最終的な就業者・居住者数の想定
つまり、「とりあえず準工業地域にして、あとは民間に任せよう」という印象です。
準工業地域になると何が起きるか:恐ろしい計算
準工業地域指定により、令和島では理論上以下の開発が可能になります:
建築可能な規模
想定される施設と就業者数(筆者想定である)
大規模物流センター:40万㎡ → 6,000人
IT・AI企業オフィス:40万㎡ → 20,000人
研究開発施設:30万㎡ → 9,000人
港湾関連オフィス:10万㎡ → 4,000人
実証実験施設:30万㎡ → 7,500人
商業・サービス:30万㎡ → 7,000人
その他:20万㎡ → 5,000人
合計:約58,500人が島で働く計算
朝の通勤ラッシュ:1時間で2万人以上が押し寄せる
この規模の開発が実現すれば:
島外通勤者:約50,000人(85%が島外居住と仮定)
朝ピーク時(7-9時)集中率:80%
1時間当たりの流入需要:約22,500人
参考:ピーク1時間あたり約22,500人を鉄道で処理しようとすると
車両:10両編成(1本あたり約1,200人輸送可)
本数:2.5〜3分間隔 → 20〜24本/時
駅タイプ:終端型(片方向処理)
で処理する程度の量である。もちろんこの試算に鉄道停止時の混乱は想定していない。
行政が発表している交通改善策を見ると:
基本方針
想定される「追加対策」
これだけでは明らかに不足するため、以下のような対策が必要になるでしょう:
ここに根本的な問題がある:「中規模交通の限界」
よく見てください。これらの対策はすべて中規模交通機関です。
なぜ鉄道を避けるのか?
JR・私鉄の新線建設:数千億円のコストと10年以上の期間
地下鉄延伸:同様の課題
結果として、「大容量鉄道は無理だから、中規模交通を複数組み合わせよう」という発想になっています。
この戦略の致命的な弱点
1. 信頼性の問題
バスやLRTは天候・事故の影響を受けやすい
一つのシステムが止まると、他に大きな負荷
2. 乗り換えの負担
複数の交通手段を使い分ける必要
利用者にとって非常に不便
3. 運営コストの問題
複数システムの維持管理費
統合運営の難しさ
4. ピーク時の処理限界
中規模交通機関は、突発的な需要増に対応できない
遅延が連鎖的に発生
現実的な疑問:本当に2万人/時間を捌けるのか?
LRT、水上交通、BRT、駐車場をフル活用しても:
理論値:28,000人/時間
実際の運用:天候・事故・メンテナンスを考慮すると20,000人/時間程度
つまり、ギリギリか、むしろ不足の可能性が高いのです。
しかも、これらのシステムが完璧に連携して初めて成り立つ前提です。一つでも問題が起これば、即座に交通麻痺が発生します。
他都市の教訓:中規模交通頼みの末路
失敗事例:幕張新都心
バス中心の交通計画でスタート
慢性的な渋滞と交通不便
結果的に企業誘致が困難に
成功事例:みなとみらい21
根本的な提言:「交通キャパシティ先行」の都市計画を
私が最も問題だと思うのは、街のビジョンが曖昧なまま開発が進もうとしていることです。
現在の進め方(問題のあるアプローチ)
とりあえず準工業地域に変更
民間の開発意欲に任せる
交通問題が深刻化してから対策を考える
あるべき進め方
交通インフラの限界を先に定める
その範囲内で実現可能な都市規模を設定
具体的なマスタープランを策定
段階的な開発を実施
具体的な提案:「3段階開発」で現実的な成長を
第1段階(現在〜2030年)
交通容量:8,000人/時間
就業者数:15,000人程度
主要施設:物流センター + 一部研究開発施設
第2段階(2030年〜2035年)
交通容量:15,000人/時間
就業者数:30,000人程度
主要施設:IT企業オフィス拡充
第3段階(2035年以降)
大容量鉄道の整備状況を見て判断
必要に応じて開発規模の拡大
まとめ:今こそ「現実的な都市計画」を
令和島は確かに大きなポテンシャルを持っています。しかし、交通インフラを無視した過大な開発は必ず破綻します。
行政に求めたいこと
詳細な交通需要予測の公表
段階的開発計画の策定
交通インフラ整備と開発のタイムライン明示
私たちにできること
この問題への関心を持ち続ける
区議会・都議会での議論を注視
現実的な開発規模への軌道修正を求める
「先端テクノロジー実装の場」というなら、まずはデータに基づいた合理的な都市計画から始めるべきです。
美しい未来図よりも、毎朝確実に通勤できる街。それが真の意味での「令和時代の都市開発」ではないでしょうか。
根拠・参考資料
基礎データ
開発計画の現状
建築・就業者数計算根拠
物流施設就業密度:15人/1000㎡(国土交通省物流施設立地動向調査)
オフィス就業密度:40-50人/1000㎡(日本ビルヂング協会調査)
研究開発施設就業密度:30人/1000㎡(産業立地動向調査)
現在の交通計画
交通容量計算
バス輸送能力:大型バス80人、3分間隔で1,600人/時間/路線
LRT輸送能力:6両編成、2分間隔で15,000人/時間(標準値)
BRT輸送能力:専用レーン、連節バス使用で8,000人/時間
水上交通:高速船200人、15分間隔で800人/時間/航路
需要計算根拠
通勤集中率:朝ピーク2時間で1日の80%(都市交通調査標準値)
島外通勤率:85%(類似地域の実績値)