ある一冊の本がきっかけだった。 内容は「最貧困の女子たち」を描いたもの。重く、つらい――けれど、読後に残ったのは感動でも怒りでもない。 奇妙な違和感だった。「これ、結局“かわいそう”で終わってないか?」 「これ、結局『かわいそう』で終わってないか?」
この違和感を掘り下げていくと、現代社会に蔓延する巧妙な搾取構造が見えてきた。
「支援」という名の金儲け
作り手の搾取構造
まず作り手から見てみよう。
- 著者:社会問題を「取材」し、本にして印税を得る
- 出版社:「社会派」レーベルで売上を確保
- メディア:「問題提起」として取り上げ、広告収入を得る
彼らは「社会に問題を知らせている」と主張するだろう。でも実際にやっていることは何か?
当事者の苦境を商品化しているだけだ。
消費者の搾取構造
次に消費者側を見てみよう。
みんな当事者の不幸をコンテンツとして消費している。そして消費することで、あたかも「社会貢献している」かのような錯覚に陥る。
本当に救いたいなら、なぜ裁判を支援しない?
ここで根本的な疑問が生まれる。
本当に助けたいなら、制度を変えるしかない。制度を変えるには、裁判で前例を作るしかない。
ところが: - 著者は当事者と接点がある - でも訴訟支援はしていない - 本を出しても制度の穴は放置されたまま
なぜか?答えは簡単だ。裁判支援は金がかかるし、面倒だし、リスクもある。でも本を書くだけなら安全に稼げる。
「お小遣い支援」という現状維持装置
フードバンク、炊き出し、一時的な宿泊支援。これらは確かに目の前の人には必要だ。
でも同時に、これらの「善意の支援」は現状維持装置として機能している。
「民間でやってるから大丈夫」 「ボランティアがいるから問題ない」
こうして行政や政治家は本腰を入れずに済む。根本的な制度改革は先送りされ続ける。
アフィリエイトという最終搾取
さらに輪をかけて、ネット上で社会問題の本を「紹介」する人たちが登場する。
「感動した」「考えさせられた」
そう書いてAmazonのリンクを貼る。クリックされれば数十円入る。
彼らは当事者の不幸を、直接的に小銭に変換している。
しかも本人は「啓発活動してる」と思っている。実際は問題を消費しやすい形に加工して流通させているだけなのに。
偽善の完成形
こうして完璧な搾取システムが完成する:
- 当事者:苦境を「素材」として提供(無償、またはお小遣い程度)
- 作り手:それを商品化して利益を得る
- 流通業者:商品を宣伝して手数料を得る
- 消費者:「良いことした」気分を購入
当事者だけが何も得られない。
いや、正確に言えば「何も得られない」どころか、さらに搾取される。彼らの尊厳は「かわいそうな存在」として商品化され、消費される。
本気で救うなら
もし本気で社会問題を解決したいなら、やることは明確だ:
1. 制度を変える
- 当事者の訴訟を法的・経済的に支援する
- 政治家に働きかける
- 前例となる判例を積み重ねる
2. 金を出す
本や記事で稼いだ金を、当事者支援に回す。アフィリエイト収入の一部でも寄付する。
それができないなら、その本は「救い」ではなく「搾取」でしかない。
その書評は「啓発」ではなく「商売」でしかない。
その涙は「共感」ではなく「消費」でしかない。
参考 1. 「Poverty Porn(貧困ポルノ)」
これが最も直接的な概念です。Hiles (2020)は「貧困ポルノ」を「貧しい人々の状況を搾取して、新聞を売ったり、慈善寄付を増やしたり、特定の目的への支持を得るために必要な同情を生み出すあらゆるタイプのメディア」と定義 Ethical judgments of poverty depictions in the context of charity advertising - ScienceDirectしています。 貧困ポルノは「貧困な個人の困窮を搾取して、視聴者から感情的反応や経済的援助を引き出すメディア表現であり、しばしば対象者の尊厳と主体性を犠牲にする」 Poverty Porn, Digital Literacy and Media Ethics: Bridging Dignity Gaps from Exploitation to Empowerment | Proceeding of International Conference on Communication, Culture and Media Studies (CCCMS)とされています。
2. 搾取と消費の構造
「貧困ポルノ」は「自分より『恵まれない』人や集団を『助ける』『親切な』行為をしたり関わったりすることで快感を得ること。この『親切』行為は人々のさらなる搾取を正当化し、ステレオタイプを悪化させる」 “Poverty Porn 101: Images & Narratives that ‘Other’” Review #1 | Project Humanitiesと定義されています。