ここ数年、世界中の都市部で急速に普及が進んでいる電動キックボード。その流れは日本にも波及し、法整備やシェアサービスの導入が進んでいます。電動キックボードを新たな交通手段として「認可」する動きは、国際的なトレンドを見れば、ある意味で自然な成り行きともいえるでしょう。
もちろん、読者の皆さんの中には「危ない」「迷惑」といった懸念を持つ方もいるはずです。実際、日本における電動キックボードの運用は決してスムーズとは言えません。
日本の電動キックボードの制度が混乱を招いた
日本の法制度の中で特に混乱を招いているのが、時速6km以下の「特定小型原動機付自転車」と、それを超える速度帯の通常モードとの"二重構造"です。これにより、同じ車体でも走行場所や速度によって法律上の扱いが変わるという非常に分かりにくい状況が生まれました。
この制度分岐が、「電動キックボード=よく分からない、怖いもの」といった印象を市民の中に広めてしまった一因とも言えるでしょう。
世界でも起きている「新しい交通」との摩擦
しかし、こうした問題は日本特有ではありません。アメリカやドイツ、フランス、イギリスなどでも、電動キックボードの急速な普及により、事故やトラブルが急増しています。各国は法規制やインフラ整備に追われている状況です。
歩行者との衝突、迷惑駐車、スピード違反などの摩擦は、世界共通の課題と言ってよいでしょう。たとえば日本では、2020年の4件から2022年には41件へと10倍以上に事故が急増。2023年7月の法改正後1年間では219件の人身事故が発生しています。
つまり、日本もまた「新しい交通手段」と既存の都市構造・交通文化との"衝突期"にあるにすぎません。
ラストワンマイルか、それ以上か?
本来、電動キックボードは「ラストワンマイル」の課題、すなわち最寄り駅から自宅や目的地までの短距離移動を効率化するための手段として提案されてきました。
しかし現実には、通勤や通学、日常の移動手段として長距離にも使われているケースが少なくありません。これが想定外のリスクや規制の難しさを生んでいるともいえるでしょう。
技術と社会のすれ違いは歴史の常
思い返せば、かつて馬から自転車へ、自転車から自動車へと、そして飛行機の登場に至るまで、人類の移動手段の進化には常に「外部不経済」(=他者や社会に与える負の影響)が伴ってきました。
そのたびに、社会は時間をかけて制度や文化、インフラを整備し、「新しい移動」を受け入れてきたのです。
許容とルールのバランスがカギ
いま問われているのは、私たちがどこまでこの新しいモビリティを許容し、それにふさわしいルールやインフラを整備できるかということです。外部不経済をどこまで抑え込めるか、そしてそれを乗り越えるだけの価値があるのか。
電動キックボードは単なる"便利なおもちゃ"ではありません。都市の構造、交通の在り方、そして社会の共生意識にまで問いを投げかける存在なのです。
各国における規制と課題の現状
世界各国で電動キックボードの課題が表面化しています:
日本 - 二重構造の法制度により利用者・市民ともに混乱 - 事故件数は2020年4件→2022年41件→2023年7月以降1年で219件と急増 - レンタル車両による事故が全体の約90%を占める
フランス - パリでは住民投票の結果、シェアリングサービスが禁止 - 歩道の占拠や安全面での市民の懸念が背景
イギリス - 2年半で死傷者が約1,400人に達したとの報告 - 私有地以外での利用は原則禁止が続く
アメリカ・ドイツ - 州や都市によって異なる規制 - 事故増加に伴う規制強化の動きが各地で進行
参考文献・出典
- 警察庁(2024):「特定小型原動機付自転車に関する規定の施行後1年間の状況」
- 警察庁(2023):「令和4年における交通事故の発生状況について」
- JAF(2024):「電動キックボードの事故は1年で219件」
- 日本経済新聞(2023年10月):「電動キックボード、海外で規制次々 事故多くパリは禁止」
- FRIDAYデジタル(2023年):「事故件数はこの1年で20倍に」
電動キックボードという新しい乗り物が、社会にとって「便利な選択肢」になるのか、それとも「新たな問題児」になるのか。それは制度と利用者双方の成熟にかかっているのかもしれません。