「謎の車間距離」はなぜ悪者扱いされるのか?
交通工学から見た合理的判断とドライバー心理
渋滞中、前の車との間に「やたらと広い車間距離」を空けながら進む車を見かけたことはありませんか?
割り込まれやすくなるし、後ろの車からすれば「はよ進めや」と言いたくなる。ネット上ではこの行動に対し、「スマホ見てるんじゃ?」「運転が下手なのか?」という非難が飛び交いがちです。
でもちょっと待って。それ、本当に"ダメな行動"なんでしょうか?
「謎の車間距離」は実は社会的に優れた行動かもしれない
多くの人が見落としているのは、広めの車間距離にも明確な機能があるという点です。具体的に言うと、以下の3つの側面から、それはむしろ「意識的に賢い行動」である可能性が高い。
1. 渋滞波(ブレーキの伝播)を吸収している
渋滞が発生する。実は、一台の車が急ブレーキをかけることで、その"ブレーキの連鎖"が後方に波のように伝わるのです。この現象を「渋滞波」と呼びます。
広めの車間距離を取っていれば、その"波"を自分の車間で吸収できるため、後続車の急停止を防ぐことができます。いわば「交通流のバッファ」になってくれているわけです。
2. ボックス・ブロッキング(交差点詰まり)を防いでいる
交差点や合流部で前方が詰まっているとき、無理に交差点に侵入するのは違反行為です。(実際、ニューヨークでは「Don't Block the Box」というキャンペーンも展開されています)
広めの車間を取る人は、その先の混雑を予見し、あえて交差点進入を避けている可能性があります。これは都市交通の流動性全体を守る行動で、決してマイナスではありません。
3. 後方追突時の玉突き防止になる
渋滞中は自分が停止していても、後方車が突っ込んでくる可能性があります。このとき、前の車との車間距離が詰まっていると「玉突き事故」が発生しやすくなります。
あえて車間を空けておくことで、自車が"クッション"となって前の車を守ることができるわけです。これ、安全志向の強いプロドライバーやバス運転手がよくやっているテクニックでもあります。
それでも叩かれる「謎の車間距離」 〜なぜ?
理由は簡単。「見た目」で判断されがちだからです。
- 前の車が進んでるのに進まない → スマホ見てるんじゃ?
- 車間が空いてる → 割り込まれて損してるだけだろ?
- 詰めないと前に進めない → 交通の流れが悪くなるじゃん!
こうした誤解が、「車間距離=詰めるべき」という誤った常識を生み出しているのです。
でも実際は、交通全体を俯瞰して動いている人ほど、"適切な車間距離"の重要性を理解している。無理に詰めることが、最終的には自分自身や社会全体にとって損であることも多いのです。
結論:「空けている」のではなく「コントロールしている」
「謎の車間距離」と揶揄されがちな行動は、実は安全性・流動性・予測性を総合して設計された"合理的な間"である可能性が高い。感情的に「詰めろ」と言いたくなる気持ちはわかりますが、そこには交通工学と安全工学の知見が背景にあることを、ぜひ知っておいてほしい。
次回、渋滞で前の車が「謎の車間距離」を取っているのを見かけたら、「あ、この人は交通全体のことを考えて運転してるのかも」と思ってみてください。きっと、イライラも少し和らぐはずです。